3月決算企業の第2四半期の業績がだいぶ出揃いました。その中に、退職金制度を変更した結果、900億円あまり利益が増加したという会社がありました。

退職金制度を変更すると利益が増えるしくみを取り上げます。

退職金制度の分類

退職金制度は、会社が従業員への退職金支給のために設定する制度です。

会社内部に積み立てるケースもありますが、大企業では、多くの場合、会社外部に企業年金を設立し、そこに資金を支払い、会社の会計とは切り離した状態で資金の運用を行います。

会社が退職金の元手を負担するわけですが、負担の仕方により、大きく分けて2つの種類があります。

確定給付企業年金

確定給付企業年金とは、従業員が受け取る給付額があらかじめ約束されている企業年金制度です。会社は企業年金に掛金を支払い運用を委託しますが、運用結果が悪くとも、会社が不足分を穴埋めし、従業員が受け取る給付額は変わりません。

確定拠出企業年金

確定拠出企業年金とは、会社があらかじめ決まった掛金を支払い、その掛金を元手に加入者自身が預貯金、投資信託等で運用し、掛金と運用収益の合計額をもとに給付額が決定される企業年金制度です。運用成果により年金受給額が変動する点が最大の特徴です。

それでは、それぞれの会計処理を見ていきます。

退職給付制度の会計処理

会計処理の前提

退職金は、従業員に対する給与の後払いである

このことは、いずれの会計処理においても、会計処理の前提となっていますので、まずは頭にとめておきましょう。

確定給付企業年金の会計処理

  • 当期末時点における、将来予測される退職金の支払総額に対する支払原資の積立金の過不足の状況を負債の部に計上する
  • 将来予測される退職金の支払義務のうち、当期に発生したと認められる金額を費用に計上する

確定給付企業年金における負債の部の計上額

負債の部の計上額は次の要素から構成されます。

  • 退職給付債務
  • 年金資産

退職給付債務-年金資産の金額が、負債計上額となります。

退職給付債務とは

退職給付のうち、認識時点までに発生していると認められる部分を割り引いたものです。

年度末に在籍している従業員について、次のような仮定を置くと、退職金規定に基づき、この者が定年退職する時点で支払うべき退職金の金額を計算することができます。

  • 現在の給与から一定の割合で昇給する(予想昇給率)
  • 定年まで退職しない(退職率)
  • 定年まで死亡しない(死亡率)
  • 退職金は一時金を選択する(予想一時金選択率)

予想昇給率、退職率及び予想一時金選択率は、会社の過去の実績等から算出します。死亡率は、厚生労働省が公表している国民全体の死亡率表等を使用します。

このうち、年度末における従業員の勤続年数分が、認識時点までに発生していると認められる部分になります。

また、実際に退職金支払が発生するのは何年も先のことですので、貨幣の時間価値を考慮し、割引計算を行います。

例えば、銀行に 年利0.001%で1,000,000円預けると、1年後には1,000,010円(税金は考慮しない)になります。将来のお金の方が現在のお金よりも価値が高いこと、これを貨幣の時間価値と言います。

退職給付債務の場合、将来に実際に支払う金額を算出していますので、現在の金額はこれよりも安いということになります。したがって、割り引く、という計算が必要になります。利率(割引率)には、長期国債などの利回りを使います。

年金資産

退職金支払いのために会社の外部に積み立てて運用している資産の年度末時点の時価です。

確定給付企業年金における費用の計上額

費用の計上額は次の要素から構成されます。

  • 勤務費用
  • 利息費用
  • 期待運用収益
  • 未認識数理計算上の差異の当期償却額

勤務費用+利息費用-期待運用収益+未認識数理計算上の差異の当期償却額が、費用の計上額となります。

勤務費用

勤務費用は、退職給付債務の当期増加額のうち、1年分の労働によって発生したと認められる部分です。期首の退職給付債務に基づき計算します。

利息費用

利息費用は、退職給付債務の当期増加額のうち、1年間、時間が経過することによって発生したと認められる部分です。期首の退職給付債務に基づき計算します。

先ほど、退職給付債務は割引計算を行うという話をしましたが、逆に1年経過すれば、利息がついて金額が増えます。利息費用はその部分です。

期待運用収益

年金資産の運用によって生じると期待される計算上の収益のことをいいます。期首の年金資産の残高に長期期待運用収益率を掛けて計算します。

長期期待運用収益率は過去の運用実績、運用方針等に基づき決定します。

未認識数理計算上の差異の当期償却額

退職給付債務および年金資産の時価は年度末にならないと正確に計算できませんが、期中の損益を反映するため、勤務費用、利息費用および期待運用収益は期首の退職給付債務および年金資産に基づき概算で計算し、計上しています。これらを加味した計算上の退職給付債務および年金資産と、実際の金額との差額を数理計算上の差異といい、一定の期間にわたって費用に計上していきます。

確定拠出企業年金の会計処理

確定拠出企業年金の場合、会社が負うのは掛金を支払う義務のみであり、将来の退職金の支払原資となる積立金の過不足を考慮する必要はありません。したがって、負債の部に計上される金額はなく、毎年の掛金の支払金額を費用に計上するのみです。

負債が消えるわけ

負債とは、会社が将来支払う義務があるものです。

確定給付企業年金の場合、企業年金に退職金原資の積立不足がある場合には、会社がその穴埋めをする必要があるため、積立不足に対応する金額は会社の負債となります。

しかし、確定拠出企業年金の場合、会社は掛金を支払えばよく、それ以上の支払い義務を負うことはありません。

このため、確定給付企業年金から確定拠出企業年金に制度変更すると、それまで計上していた負債がなくなる、というわけです。

リスク分担型企業年金

冒頭の会社が採用したのは、分類上は確定給付企業年金ですが、確定給付企業年金と確定拠出企業年金の中間に位置するような、新たな企業年金である「リスク分担型企業年金」でした。

これは、年金資産の運用が悪化するリスクに備えるための掛金の金額をあらかじめ労使で合意し、会社は合意に基づきリスクに対応する掛金を払い込むが、それ以上の支払い義務は負わない、という制度です。年金の受給額が減るリスクについて、会社はリスク対応掛金という一定の追加金額を支払うことで負担し、それでもまかなえない受給額の減少は受給者が負担する、という仕組みであり、それゆえ「リスク分担型」と言われます。

会計処理としては、会社が負う義務が労使で定めたリスク対応掛金に限定される場合は、確定拠出企業年金と同じ処理となります。このため、今回、約1,500億円の退職給付に係る負債が減少し、代わりに今後4年間で支払うリスク対応掛金約600億円を計上した結果、差額の約900億円が利益となった、というわけです。(なお、公表されている連結財務諸表には退職給付に係る負債が計上されていますが、制度変更の対象外の制度および会社のものと推測されます。)

退職給付に係る負債1,500億円という規模を見ると、この先4年間で支払う600億円できれいさっぱりこれと別れられるのであれば、貸借対照表は軽くなり、業績も読みやすくなりますので、会社にとっては望ましいことだと思います。年金制度の移行には、労使交渉、従業員や年金受給者に対する説明の実施など手続が煩雑で、規模が大きくなればなるほど困難になりますが、それを補って余りある、という経営判断だったのだと思います。

おわり。

今日の花

ドラセナ・サンデリアナ(リュウゼツラン科、原産地:東南アジア熱帯他)

ドラセナは種類が多く、サンデリアナは緑と白が爽やかです。葉先に少しクセをつけて動きを出すと、より華やかになります。