監査って何だろう、と思いました。

監査法人を辞めた私が言えた義理ではありませんが。

財務諸表監査の目的

上場会社が提出する財務諸表については、公認会計士または監査法人の監査証明を受けることが義務付けられています(金融商品取引法第193条の2第1項)。

財務諸表監査を行う目的は、次のように定義されています。

財務諸表監査を実施する監査人の全般的な目的は、不正か誤謬かを問わず、財務諸表に全体として重要な虚偽表示がないということについての合理的な保証を得ることによって、財務諸表が、すべての重要な点において、適用される財務報告の枠組みに準拠して作成されているかどうかに関して、監査人が意見表明することである。

(監査基準委員会報告書320 A1)

重要な虚偽表示ないかどうかに着目して、監査は実施されます。

そして、その結果としての監査意見は、財務諸表が重要な点において適正に表示されているかどうかについて表明されます。

重要な虚偽表示

虚偽表示とは、

報告される財務諸表項目の金額、分類、表示又は開示と、適用される財務報告の枠組みに準拠した場合に要求される財務諸表項目の金額、分類、表示又は開示との間の差異

(監査基準委員会報告書450 3(1))

と定義されています。

会社が作成した財務諸表の金額や開示が、会計基準等に照らして(故意か故意でないかにかかわらず)間違っているということです。

重要性については、

脱漏を含む虚偽表示は、個別に又は集計すると、当該財務諸表の利用者の経済的意思決定に影響を与えると合理的に見込まれる場合に、重要性があると判断される

(監査基準委員会報告書320 2)

とされています。

重要性の基準値の決定

監査を行う前、監査計画を策定する段階で、重要性の基準値を決定します。

次に、個別には重要ではないが集計すると重要な虚偽表示となる場合があることや、発見できていない虚偽表示が存在する可能性があることから、未修正の虚偽表示と未発見の虚偽表示を合計しても重要性の基準値を上回らないように、重要性の基準値よりも低く、手続実施上の重要性を設定します。

さらに、監査の最終段階で、監査の過程で識別した虚偽表示を集計しますが、この集計の対象とする際の基準として、「明らかに僅少」な額を設定します。これを上回る虚偽表示は集計する、というものです。

監査報告書は、連結財務諸表と個別財務諸表に対してそれぞれ提出しますので、重要性の基準値、手続実施上の重要性、明らかに僅少な額もそれぞれについて決定します。

重要性の基準値の決め方

重要性の基準値は、最初に指標を選択し、それに対して何%といった決め方をします。指標には、税引前利益、売上高、総資産などが用いられます。

手続実施上の重要性は、重要性の基準値よりも低く設定します。これについては、機械的な計算ではなく、職業的専門家としての判断をもって決定する、とされています。

明らかに僅少な額は、重要性の基準値よりごく少額な水準で設定します。

重要性とは何なのか

連結税金等調整前当期純利益(連結税引前利益に当たるもの)が7,000億円の企業グループがあったとします。

仮に、重要性の基準値を連結税金等調整前当期純利益の5%とすると、重要性の基準値は、

7,000億円×5%=375億円

となります。

手続実施上の重要性は職業的専門家としての判断をもって決定するとされていますが、ここでは仮に重要性の基準値の75%とすると、手続実施上の重要性は、

375億円×75%=281億円(端数切捨、以下同じ。)

となります。

さらに、明らかに僅少な額を仮に手続実施上の重要性の5%とすると、明らかに僅少な額は、

281億円×5%=14億円

となります。監査の過程で14億円を下回る虚偽表示を発見しても、内容または状況のいずれにおいても明らかに些細と判断されれば、虚偽表示として集計されることはありません。

どうですか、14億円。

この企業グループであれば、海外の子会社で5億円建物が増えていても、数億円旅費交通費が計上されていても、少なくとも会計監査の過程で目に止まることはないでしょう。

会計監査はそもそも投資判断に影響を及ぼさないような重要でない誤りには責任がないので、14億円(正確には一番最初に決める375億円)という基準値の設定が妥当であったならばそれでよく、経営者不正は内部統制を無効にする最も効果的かつ発見しにくい手段ですから、その責任を問われることもないでしょう。

だけど。金額の大きさに対する感覚のずれは、個人的には割り切りきれないものがあります。実際には株価は下がったわけで、じゃあ監査って何なのかなと。決して、責任を求めるわけではなく、いい悪いでもなく、制度に対する虚無感というか、そういう気持ちです。

そうなると、不正の発覚は、会社内部の自浄作用によるか、別の当局による調査等(目的が異なれば視点や重要性も変わる)で明らかになるかなどが考えられます。

今回は前者だったわけですが、経営方針の違いが一因としてあったようで、もしもそれがなかったら、数千万円、数億円のお金が延々と特定の個人のために使われ続けていたのでしょうか。それを許容してきた人たちにとって、会社のお金や経営って一体何だったんだろうと、必死で会社を経営しているお客様をいつも見ている自分からしたら、他人事なのに、虚しく、憤り、情けない気持ちになりました。グローバル企業にはお前なんかにはわからない事情があるのだと言われてしまえば、それはもう、ごもっともなのですが。

今日は取りとめのない話になってしまいましたが、このなんとも言えない気持ちを書きたかったので書きました。

※財務諸表監査の現場から離れてだいぶたちます。当時の感覚で書いているところがありますので現状と異なればお許しください。

おわり。

今日の花

小菊(キク科、原産地:中国(推定))

まさに、いけばなの花、ですね。実家が寺なので墓前の花という印象しかなかったのですが、小菊、大菊、ピンポン菊など種類豊富ですし、茎が丈夫で刺し直しに耐えるのがありがたいです。