新規開業の個人事業主の場合、多くの届出は開業から1ヶ月〜2ヶ月以内に税務署に提出する必要があります。
しかし、初回の確定申告期限が届出書の提出期限となっている会計・税務処理方法の届出もあります。
新規開業時の届出
個人事業を開業したら、まずこれ、という届出は次の2つです。
- 個人事業の開業届
- 青色申告承認申請書
個人事業の開業届
開業から1ヶ月以内に提出します。
会社の場合、会社の存在を証明するものとして、法務局が発行してくれる登記簿謄本がありますが、個人事業主の場合、そのようなものがありません。
このため、事業用の銀行口座を開くとき、事業用のクレジットカードを作るときなど、必ずといっていいほど、「税務署の受領印のある個人事業の開業届」の提出を求められます。
青色申告承認申請書
開業から2ヶ月以内に提出します。
帳簿記録をつけること等を条件に、10万円または65万円の所得控除を受ける(事業所得=事業のもうけを減らす)ことができ、節税につながります。
開業した段階で、帳簿をつけるということがよくわからなくても、期限が過ぎると、その年は所得控除を受けられなくなってしまうため、とにかく申請はしておきましょう。
新規開業後初めての確定申告期限が期限の届出
新規開業後初めての確定申告期限(3月15日)が提出期限の届出のうち主なものとして次の2つを取り上げます。
- 棚卸資産の評価方法の届出
- 減価償却資産の償却方法の届出
棚卸資産の評価方法の届出
棚卸資産とは、いわゆる在庫で、具体的には、販売予定の商品・製品、製造途中の仕掛品、製造に使用する原材料などのほか、消耗品・パンフレット等の貯蔵品があります。
製品や仕掛品の金額は、原価計算により計算します。
商品、材料等の金額は、数量×単価で求めます。
数量は実地棚卸により把握します。
単価については、商品、材料等は1年を通じて複数回購入しており、通常、毎回購入価格が異なるため、事業年度末時点で残っている在庫の単価をどのように計算するかが問題となります。
この単価の計算方法を棚卸資産の評価方法といいます。
評価方法には次の6つがあります。
- 個別法
- 先入先出法
- 総平均法
- 移動平均法
- 売価還元法
- 最終仕入原価法
所得税法の原則的な評価方法は、事業年度末に最も近い時期に購入した時の価格を単価とする、最終仕入原価法です。
このため、届出を提出しない場合には、最終仕入原価法により、期末在庫の金額を計算します。
しかし、例えば、多品種を扱う小売業などは、最終仕入原価法を採用することになると、システムで管理している場合は別として、すべての在庫商品の最終仕入原価(年の一番最後に仕入れた時の価格)を把握するのが非常に困難です。
このような業種では、売価還元法を適用すると、在庫商品の売価に原価率を掛けることによって在庫の原価を算出することができます。そこに、棚卸資産の評価方法の届出を行うメリットがあります。
減価償却資産の償却方法の届出
一定の金額を超える固定資産は、購入時には経費とせず、その使用に応じて収益の獲得に貢献すると考え、資産ごとに使用可能な期間を見積もり、購入価格をその使用可能期間に割り振って経費にする、という会計・税務処理を行います。
これを減価償却といいます。
会計上は、資産ごとに使用可能期間を見積もることができますが、税務上は、資産の種類・材質・用途によって決められている法定耐用年数を使用可能期間とします。
購入価格を使用可能期間に割り振る方法には、次のようなものがあります。
- 定額法…毎年一定額の減価償却費を計上する方法
- 定率法…毎年一定の率で減価償却費を計上する方法
- 生産高比例法…資産の総活動量を見積り、そのうちの当期の活動量の割合で減価償却費を計上する方法
このうち、所得税法の原則的な償却方法は定額法です。
建物、建物附属設備(電気設備、空調設備など)、構築物、機械装置については、定額法しか適用できませんが、工具器具備品や車両運搬具については、定率法を選択することができます。
定率法を用いると、使用開始に近い時期ほど減価償却費は大きくなりますので、新規開業の時に定率法を選択すれば、節税のメリットがあります。
減価償却費の大小だけで考えるべきものではありませんが、定率法を選択できる工具器具備品や車両運搬具は、実際、建物等に比べて経年劣化は早く、年数が経つにつれメンテナンスコストがかかる傾向があり、減価償却費とメンテナンスコストを合わせて考えるとバランスが取れる、という見方はできます。
おわりに
棚卸資産の評価方法、減価償却資産の償却方法とも、これからの決算処理にかかわるものです。
もし、所得税法の原則以外の方法を選択したい・する予定であれば、確定申告書とともに、届出を提出することをお忘れなく。
今日の花
オンシジウム(ラン科、原産地:熱帯アメリカ)
華やかな黄色の花で、お正月のアレンジ・いけばなによく使います。花の形が、ドレスを着た女の子のように見えませんか?この花を見ると、心躍るような気持ちになります。