私にとって、フラワーアレンジメントは守るべき砦でした。
天から降ってきた
フラワーアレンジメントを始める前の自分は、花にはまったく興味がありませんでした。
実家は寺でしたので境内があり、しだれ桜、ハナミズキ、シャクナゲ、ツツジ、バラなど、季節ごとに咲く花木が植えられていましたが、いつ何が咲こうがまったく関心がなく、「女の子なのに」と母に呆れられていました。
一人暮らしをするようになってからも、当然、家に花瓶などなく、たまにお祝いなどでお花をいただくとどうしたらよいか困ったものです。
あるとき、監査チームの打ち上げでイタリアンレストランに行きました。打ち上げといえば、居酒屋などでするのが普通でしたが、その時は、初度監査でみんながんばったから、という理由だったと思います。
その店に飾られていた白い装花を見て、まったく花には関心のなかった自分が、なぜか「わあ、綺麗」と思いました。
私はお酒が飲めませんので、お酒がまわるにつれ饒舌になる他の人たちをよそに手持ち無沙汰になってきて、ずっと、白い花を眺めていました。
綺麗だな、綺麗だな、と眺めているうちに、突然、降ってわいたように、「私もこんな風にお花をいけられたらどんなに素敵だろう」と思ったのです。
それからしばらく、仕事が忙しくなり忘れていたのですが、仕事が落ち着くとこのときの思いがまた甦ってきて、とうとうフラワーアレンジメントを習い始めました。
フラワーアレンジメントにはまった理由
フラワーアレンジメントを始めたからといって、急に花が好きなった、とか、花に触れて癒やされる、ということはありませんでした。
はまった理由は3つありました。
仕事のことを忘れられる
アレンジメントをしている間は、それに集中するので、仕事のことは一切考えずにすみました。
当時の作品の写真を見ると、ものすごく集中していたんだろうなという細かさで、今の自分にはできないと思う程です。
空間に立体を作り出すことの楽しさ
フラワーアレンジメントは、空間デザインだと思っています。
吸水性スポンジ(オアシス、という方が有名かもしれません)という、ものすごく水をよく吸う粉を四角く固めたものを、適当な大きさに切って、使う直前に水を吸わせ、器に置いて、花を挿していきます。
1/3(幅7.7センチ、長さ11センチ、高さ8センチ)のサイズのものを使うことが多いです。
ラウンドアレンジという丸い形のアレンジメントを作るときも、使う吸水性スポンジはこの直方体です。
球体は直径が同じですが、ベースとなる吸水性スポンジは直方体ですので、短辺に挿すときと長辺に挿すときでは茎の長さを変える必要があります。花も平面状のもの(ガーベラなど)や立体的なもの(バラなど)があるため、さまざまな花でバランスよく球体の表面を構成するためには、長さや挿す角度を考える必要があります。
自分がイメージする立体を、1つ1つ、色も形も異なる花を組み合わせて作りあげる、そのプロセスがおもしろいのです。
仕事以外の世界
最も大きかったのは、仕事以外の世界ができたことでした。
大学卒業後、すぐに就職しなかったこともあって学生時代の友人とは疎遠になっており、大好きだったバンドは監査法人に就職した年に解散。それからは趣味らしい趣味もなく、家と職場の往復だけでした。
先生は女性の先生で、アレンジメントにはもちろんこだわりがありますが、その他の部分ではあまり細かいことにこだわらない気さくな方で、付き合っていてとても楽しいです。
生徒さんも長く続けている方が多く、この先生を慕って集まって来られるので、みなさんとてもいい方です。
イベントなどに参加すると、自分の居場所がだんだんとできてくるのがうれしかったです。
いつしか、自分の中で、これだけは必ず続けていくもの、守るべきもの、という位置づけになっていきました。
砦となるもの
4月、5月の繁忙期は土日も出勤していましたので、レッスンを休まざるを得ませんでしたが、それ以外のときは、週末偏頭痛(平日のストレスから解放される週末に脳の血管が拡張して起こる偏頭痛)を起こしていても痛み止めを飲んでとにかく行く。この痛みに負けてレッスンを休んだら、自分の人生は仕事に制服されてしまう、と。人から見たら大したことではないでしょうが、自分にとっては闘いでした。
ワークライフバランスと言いますが、自分にとってフラワーアレンジメントは、「ライフ」の最後の砦でした。
今はともかく、勤めていた頃は、仕事はあくまで生活費を稼ぐためのもの。自分は仕事をするために生きているわけではない。 生きるために仕事をしているだけ。
監査法人で品質管理部門に所属していたときは、本当に仕事が辛くて辛くて仕方がありませんでしたが、最終的に優先順位を見失わずにいられたのは、自分の砦があったからだと思っています。
ご家族やお子さんのいらっしゃる方であれば、それはご家族やお子さんかもしれません。
自分にとって、守るべき砦は何なのか。
本当に辛くなったとき、何か重要な選択を迫られたとき、自分は何を守るべきなのか。
守るべきものを守ることができる人生を選ぶことが大切なのではないかと思います。
おわり。
今日の花
ガーベラ(キク科、原産地:南アフリカ)
花びらが細長いタイプです。近所のお花屋さんでは、ガーベラは花がフィルムにくるまれて売られています。フィルムを開くと思っていた形と違ったりして(これもそうです)面白いです。