前回(「報酬・料金を支払うときのこと」)、非居住者(外国の個人)や外国法人に報酬・料金を支払うとき、源泉徴収が必要な場合があるということについて書きました。

今回は、源泉徴収を不要にする、もしくは、低い税率区分で源泉徴収することができるという話です。

二重課税の問題

例えば、アメリカ在住のコンサルタントが、来日して日本の会社のためにサービスを提供し、報酬を受け取ったとします。

この場合、受け取った報酬から20.42%の所得税が源泉徴収されます。

では、アメリカではこの報酬にかかる税金はどうなるのか?

アメリカ在住の人は、世界中どこで稼いだお金に対してもアメリカの税金がかかります。これを全世界課税といいます。

つまり、日本で源泉徴収された報酬について、アメリカにも税金を払う必要があります。

このように、同じ所得に対して二重に税金がかかってしまうことがあります。これが二重課税の問題です。

外国税額控除

二重課税を解決する1つの方法として、外国税額控除があります。

外国税額控除とは、外国で課税された所得税のうち一定の金額を、現地の税法に基づき計算した所得税から差し引くことができるという制度です。

しかし、この適用を受けるためには、通常、確定申告の際に外国で課税された証明書などを添付する必要がありますし、税率が異なる場合などには、外国で課税された金額をすべて差し引けないことも考えられます。

そこで、国と国との間で、どのような所得にはどちらの国がどれだけ課税するあるいは課税しない、といった取り決めをし、二重課税が起こらないようにする場合があります。

この取り決めのことを租税条約といいます。

租税条約とは

租税条約とは、日本と他の国との間で締結する、2国間の課税関係等についての取り決めです。2018年11月1日現在、126か国・地域との間で条約が締結されています。

租税条約には、国際標準である「OECDモデル租税条約」があり、OECD(経済協力開発機構:Organisation for Economic Co-operation and Development)加盟国を中心に、租税条約を締結する際の規範となっています。OECDモデル租税条約には、上述の二重課税の除去を含め、次のような内容があります。

課税関係の安定
  • 源泉地国(所得が発生する国)が課税できる所得の範囲を確定
  • (源泉地国が課税できる所得の範囲を確定することにより)居住地国における二重課税を除去
  • 条約に適合しない課税については、税務当局間の相互協議により解消
脱税および租税回避等への対応
  • 税務当局間で納税者情報(銀行口座情報を含む)の交換
  • 滞納租税に関する徴収の相互支援

ただし、あくまで2国間の取り決めであるため、標準モデルがあるとはいえ、個々の条約の内容は異なる場合があります。

租税条約の特徴

1つの事象について租税条約に国内法と異なる取り決めがある場合、租税条約が国内法に優先します。租税条約は国内法を部分的に修正するもの、というとらえ方になるでしょうか。

ただし、租税条約は、居住地国における課税(アメリカの法律に基づく全世界課税)を制限するものではありません。

上のアメリカのコンサルタントの例で言えば、日本で得た所得に対する日本での課税(20.42%の源泉徴収)をどうするか、ということを取り決めるものです。

したがって、「居住地」をどことするかが非常に重要であり、租税条約の中で必ず定義されています。

租税条約の効果

日本とアメリカとの間では日米租税条約が締結されています。

居住者については、原則として、国内法に基づき居住者とされる者が該当する旨が規定されています。アメリカの場合、グリーンカードがあるため、より細かな規定も設けられています。

租税条約では、所得の種類別に取り決めがなされます。

日米租税条約では、コンサルタント等の専門家(自由職業者)が得る所得については、源泉地国にPE(恒久的施設:支店等)がなければ、源泉地国では課税されない、と定められています。

つまり、租税条約が適用された場合、アメリカのコンサルタントが日本に支店等を持っていなければ日本で得た所得について源泉徴収されることはない、ということになります。

租税条約の適用を受けるためには

租税条約に関する届出書

租税条約の適用を受けるためには、源泉地国にて届出を提出する必要があります。

上の例で、日本の会社が、来日してサービスを提供してもらったアメリカのコンサルタントに報酬を支払う際に源泉徴収しないようにするためには、報酬を受け取る側のコンサルタントが「租税条約に関する届出書」を作成し、支払者である日本の会社に提出し、日本の会社が、自社を所轄する税務署(確定申告書等を提出している税務署)にこれを提出する必要があります。

提出期限は、初回の支払いを受け取る前日です。一定期間継続して定額の報酬を受け取る場合には、その内容をあらかじめ届出し、変更が生じたときに改めて届出を行うことになります。

報酬の受取人(報酬を支払う相手)からの委任状や、報酬の受取人が居住する国によって発行される居住者証明書の添付が必要な場合があります。書類の作成・発行には時間がかかることがあるため、前もって準備しておく必要があります。

実務的には、受取人に作成してもらうというよりは、支払者である日本の会社が書類を準備し、受取人の署名と添付書類を受領する、という流れになるのではないかと思います。

租税条約に関する源泉徴収税額の還付請求書

届出書の提出が間に合わずに源泉徴収を行っていたり、そもそもこのような所得税の減免の手続を知らずに源泉徴収が行っていた場合、届出書とともに「租税条約に関する源泉徴収税額の還付請求書」を提出し、すでに納付した所得税額を還付請求することができます。

こちらも、報酬を受け取る側のコンサルタントが還付請求書を作成し、支払者である日本の会社に提出し、日本の会社が、自社を所轄する税務署にこれを提出する必要があります。

還付請求書についても、実務的な書類作成の流れは届出書と同様と考えられます。受取人からの委任状の添付が必要な場合があり、やはり書類の準備に時間がかかることがあります。

まとめ

  • 外国の個人や法人に報酬等を支払う場合には、源泉徴収が必要かどうか確認する
  • 源泉徴収が必要であれば、報酬等の支払前に届出書について受取人に説明し、書類を準備する
  • 書類が間に合わなかった等の理由で源泉徴収を行った場合でも、届出と併せて還付請求することができる

おわり。

今日の花

アスチルベ(ユキノシタ科、原産地:日本・中国)

ふわふわした部分は開花していて、先の方の丸い粒はつぼみです。茎も葉も華奢で、ふんわりした雰囲気が好きです。ただし、アレルギー性鼻炎の方は要注意・・・。