法務省が休眠会社の整理に関する公告を出しました。
12年以上登記がされていない株式会社等は、平成30年12月11日までにまだ事業を廃止していない旨の届出をしないときは、職権で解散の登記をするなどの整理が行われます。
今回は、解散・清算に関する法律・会計・税務を取り上げます。
まあ、このように整理される会社が、税務上必要な手続を取ることはないのでしょうが・・・。
解散・清算に関する会社法関連の手続
会社が解散するには、次の理由があります。
任意解散
- 定款で定めた存続期間の満了
- 定款で定めた解散事由の発生
- 株主総会の特別決議
- 合併
強制解散
- 破産手続開始の決定
- 解散を命じる判決
- 休眠会社のみなし解散
強制解散のうちの「休眠会社のみなし解散」が、冒頭に取り上げた、法務省による職権での会社整理です。
今回は、任意解散の中でも最も多い、株主総会の特別決議による解散について見ていきます。
解散・清算は会社の法人格を法的に消滅させる手続であり、株主総会決議による場合、その決断に至る理由は、後継者がいない、経営状況の悪化など、さまざまです。
株主総会の特別決議とは
- 議決権を持つ株主の議決権の過半数の出席
- 出席株主の議決権の2/3以上の賛成(加重)
が要件とされる株主総会決議です。
定款変更、監査役の解任、資本金の額の減少、事業全部の譲渡、解散など、会社にとって重要な意思決定を行う際に、決議要件を重くしています。
解散を決議するとどうなる?
解散を決議すると、会社は清算株式会社となり、以降は清算手続として、財産目録の作成、債務の返済、残余財産の分配、決算などを行います。
清算株式会社では、清算手続を行う者として、代表取締役に代わり「代表清算人」(清算人の代表)が置かれます。
ただし、清算株式会社であっても、株式会社であることには変わりはなく、決算や株主総会の開催なども行います。
解散と清算人選任の登記が必要であり、解散後遅滞なく、官報に解散公告を掲出する必要があります。
清算手続と清算結了
清算手続においては、債権の取立、資産の売却や債務の支払(または減免を受ける)などを行います。
残った現預金等を株主に分配したのち、決算報告を作成して株主総会の承認を得ます。この承認によって清算は結了(終了)します。
清算決了後、その旨の登記を遅滞なく行います。
解散・清算に関する会計と税務
事業年度と決算
解散を決議すると、解散の日の翌日から1年間が事業年度(清算事業年度)となります。
その間、従来どおり会計取引を記録し、清算結了するまで毎年、事業年度末から2ヶ月以内に決算の確定と法人税等の申告を行います。
解散前後の事業年度の決算・申告に関する留意点
解散後においても、従来どおりの損益計算を行い、それに基づき課税所得を計算します。税率も変わりません。ただし、一部、通常の事業年度とは異なる処理が必要になる場合があります。
期間按分が必要な場合
期の途中で解散を決議すると、解散の日の翌日から新しい事業年度が始まるため、期首~解散の日までの期は1年間に見たない事業年度となります。このため、課税所得の計算上、期間按分が必要になる項目があります。
例えば、
- 減価償却費を月割りで計上
- 交際費の損金算入限度額の定額控除限度額
- 寄附金の損金算入限度額
などです。
ただし、清算株式会社は、営業活動は行わず清算手続のみを行いますので、交際費や寄附金が実務的に発生することはあまり想定されないと考えられます。
また、税額計算においても、
- 軽減税率が適用される所得の上限
について、月割り計算が必要となります。
税額控除の適用可否
上述のとおり、清算株式会社は、営業活動は行わず清算手続のみを行います。このため、営業活動を前提とした税額控除は適用できません。
適用できる税額控除の例
- 所得税額控除
- 外国税額控除
適用できない税額控除の例
- 試験研究費の総額に係る税額控除
- 中小企業投資促進税制
- 所得拡大税制
みなし配当
残った現預金等を株主に分配する際、資本金を超える部分は「みなし配当」とない、所得税がかかります。
支払を行う会社は、所得税を源泉徴収する必要があります。
期限経過欠損金の使用
青色申告した事業年度に発生した欠損金(課税所得が発生せず損失となった部分)は、9年間繰り越すことができます。
清算事業年度において、例えば借金の返済を免除してもらった場合には、「債務免除益」という利益が計上されます。他方、営業活動を行っていないため経費の発生は通常少なく、1事業年度の課税所得の計算では所得が発生するケースも考えられます。この場合、清算事業年度の税額計算においても、繰越欠損金を充当して相殺することが可能です。
繰越欠損金と相殺してもなお所得が発生する場合、「残余財産がないと見込まれる」ことを要件として、発生から9年超経過した欠損金(期限経過欠損金)と相殺することができます。
ここでいう「残余財産がないと見込まれる」状態とは、実態貸借対照表(処分価格による貸借対照表)で債務超過になっている場合等が該当します。
消費税
課税事業者となるかどうかは、2期前の課税売上高で判定されることは変わりません。したがって、解散の日を含む事業年度や、清算事業年度1期目には、消費税の課税事業者である場合が多いと思います。
清算事業年度においては、営業活動は行わないため、通常、売上高は計上されません。ただし、建物や車両等の固定資産を売却した場合には、売却額が課税売上となります。これに対し、仕入税額控除が可能な経費の発生は少ないと予想されるため、資産売却などを行う場合は、消費税の申告・納税にも注意が必要です。
おわりに
現在、事業を営む会社にとっては、解散・清算はあまり考えたくない事態だと思います。
私自身、勤めていた税理士事務所で何度か解散・清算の決算・申告を担当したことがありますが、終息に向かうだけなのにお金とそれなりの労力がかかるプロセスで、何ともいえない気持ちになります。せめて最後まできちんとしよう、という気持ちを支えにしていました。
後継者がおらず、経営に問題がないのに会社を閉めざるをえないケースも増えています。これを重く見て、事業承継の支援税制が拡充されています。なんとか状況を改善していけるよう、自分にもできることを探っていきたいと思います。
おわり。
今日の花
ノイバラの実(バラ科、原産地:日本)
枝ぶりと赤い実が美しいです。花屋さんで見かけて「かっこよくいけばなにしたい!」と買ったものの技術が伴わず、普通にガラス花瓶へ・・・。実がドライになっても長く楽しめます。