消費税増税に伴う経済対策として、中小小売店で買い物をする際クレジットカードなどのキャッシュレスで支払いをすると、代金の2%分ポイントを還元し、その分、ポイントを発行する会社に政府が補助するという案が出ています。
補助すればそれでよいのか、そして、中小小売店のキャッシュレスにこだわる理由を考えてみました。
2%ポイント還元の会計処理の考察
以下にお店とポイント発行会社(以下、「ポイント会社」といいます。)の会計処理として記載する内容は正式に公表されているものではなく、公開されている決算書などに基づき推測したものであり、国からポイント会社に対する補助のスキームも確定したものではありませんので、ご了承ください。
ポイント付与
お客さんが50,000円(消費税別)の商品を買った。ポイントは税抜金額100円につき1ポイント付く。代金の2%分ポイントが還元される。1ポイントは1円として利用できる。ポイントの有効期間は1年。
付与されるポイント
通常ポイント:50,000円×1ポイント/100円=500ポイント
加算ポイント:50,000円×2%=1,000ポイント
合計:1,500ポイント
一般的なクレジットカード等のポイント付与率は0.1%~ですので、2%のポイント還元というのはなかなかの還元率です。
ポイント付与にかかるお店の会計処理
お店は、付けたポイント見合いの金額をポイント会社に支払い、販売促進費等として計上します。支払うのは通常ポイント分のみとしないとお店の経営を圧迫しかねませんので、そのように仮定します。
借方 | 貸方 | ||
販売促進費 | 500 | 現金 | 500 |
ポイント付与にかかるポイント会社の会計処理
ポイント会社は、受け取ったお金を収益に計上します。
借方 | 貸方 | ||
現金 | 500 | 売上高 | 500 |
ポイントを付けたことについては、会計処理は行いません。
ポイント利用
お客さんが10,000円の商品を買い、うち100円分をポイントで支払った。
ポイント利用にかかるお店の会計処理
お店は、お客さんからポイントで受け取った金額を、後日ポイント会社からもらうことができます。
借方 | 貸方 | ||
現金 | 9,900 | 売上高 | 10,000 |
未収金 | 100 |
ポイント利用にかかるポイント会社の会計処理
借方 | 貸方 | ||
販売促進費 | 100 | 現金 | 100 |
お店がお客さんからポイントで支払いを受けた分は、ポイント会社がお店に支払い、販売促進費として計上します。
ポイント残高
1,500ポイント-100ポイント=1,400ポイント
2%ポイント還元の国からの補助(ポイント会社)
国の補助金としての扱いになる場合、補助金の交付が決定した年度に会計処理をします。
借方 | 貸方 | ||
現金 | 1,000 | 雑収入 | 1,000 |
年度末
3ヶ月後、お客さんがポイントを使いきらないまま決算を迎えた。将来お客さんがポイントを使うだろうと見込まれる割合は80%(20%は使われずに失効する)である。
ポイント残高1,400に、上記80%を掛けた1,120(円)を引当金として計上します。
借方 | 貸方 | ||
ポイント引当金繰入額 | 1,120 | ポイント引当金 | 1,120 |
2%還元として付けたポイントに見合うお金を国から補助してもらったとしても、ポイントを持っているのはお客さんであり、お客さんがポイントを使って初めて経費になるので、引当金の設定対象となるのは、還元ポイントを含む全ポイント残高であると考えられます。
2%ポイント還元の税務処理の考察
ポイント関連の収益と経費に限ると、お店から受け取ったポイント見合いの売上と、国から補助される収入には、どちらも税金がかかります。
他方、お客さんが使ったポイント分としてお店に支払った経費は、税務上、損金(税金計算するうえで差し引くことのできる経費)になりますが、ポイント引当金繰入額は損金になりません。
したがって、2%ポイント還元がある場合の課税所得は、次のような計算になります。
売上高500円-販売促進費100円+雑収入1,000円=1,400円
2%ポイント還元の影響
2%ポイント還元の影響を検討するため、2%ポイント還元がない場合の課税所得と比べてみます。
2%ポイント還元がない場合の課税所得
売上高500円-販売促進費100円=400円
2%ポイント還元で付けたポイントがあまり使われなかった場合、国から補助される収入については先に税金がかかるのに対し、残ったポイントについてはポイントが使われた期に税金計算で差し引かれることとなり、課税時期のずれが生じる、という影響が考えられます。
国としては、ポイントが使われれば消費が上向く=消費税が入ってきますし、ポイントが使われなくても、補助したお金のうち使われなったポイントに対応する部分から、法人税を回収できます。
もっとも、補助そのものが期間限定と言われていますので、ポイント会社側でも期間限定ポイントとして付けることができ、お客さんに早く使ってもらえれば、お店に支払うポイント見合いの経費が増え、国から補助される収入とうまく相殺されます。その場合には、上のような影響は小さくなります。
「キャッシュレス・ビジョン」
今回の「2%ポイント還元はキャッシュレス決済に限定」という方針からも見られるように、最近の国による“キャッシュレス推し”はますます高まっているように思えます。
日本全体でキャッシュレス決済は2割程度であり、特に中小企業にとっては、カード会社に支払う手数料や端末などの費用負担が重く、そのためになかなか普及が進まないと見られています。
政府は端末の支給なども検討しているほか、カード会社等に手数料の引き下げを要請するなど、この消費税増税とポイント還元を機にキャッシュレス決済を普及させたい意図が見えます。
たしかに、クレジットや電子マネーの支払いが普及すれば、レジの店員さん1人当たりがさばけるお客さんの数が増えたり、セルフレジを活用できたり、現金の管理にかかっている時間と人件費等のコストを削減できるなど、昨今叫ばれている人手不足の解消に役立つことは間違いありません。削減できた経営資源を、事業のより重要な部分に集中させることもできます。
でも、それだけ?
以下は、2018年4月に「クレジットカードデータ利用に係るAPI連携に関する検討会」(キャッシュレス検討会)が公表した「キャッシュレス・ビジョン」の一節です。
「キャッシュレス推進は、実店舗等の無人化省力化、不透明な現金資産の見える化、流動性向上と、不透明な現金流通の抑止による税収向上につながると共に、さらには支払データの利活用による消費の利便性向上や消費の活性化等、国力強化につながる様々なメリットが期待される。」
出典:「キャッシュレス・ビジョン」 平成30年4月 経済産業省 商務・サービスグループ 消費・流通政策課
不透明な現金を、透明なキャッシュレスへ。そして税収向上。
中小企業をターゲットにして、国が力を入れるのは納得、という気がします。
おわり。
今日の花
マリーゴールド(キク科、原産地:メキシコ)
マリーゴールドというとオレンジや黄色の鮮やかな色の花をイメージします。このクリーム色の花はとても優しげで、花びらの重なりが美しいです。