前回、前々回と、減価償却の会計処理をめぐり、複式簿記、期間損益計算、発生主義、費用収益対応の原則について取り上げました。
このうち、期間損益計算、発生主義、費用収益対応の原則は会計の概念・考え方であるのに対し、複式簿記はその前提として取引を記録するための方法論であるとご紹介しました。
とはいえ、複式簿記は発生主義と密接に関係しており、発生主義において利用されてこそその本領を発揮します。
単式簿記と複式簿記
「簿記」とは、事業を営むにあたって日々発生する取引を帳簿に記入し、その結果を明らかにすることをいいます。
簿記には、「単式簿記」と「複式簿記」という2つの種類があります。
単式簿記とは
単式簿記とは、現金預金の出入り(収支)のみを記録していく方法です。
例1)12月20日に、商品700,000円を仕入れて代金を現金で支払った
→12月20日 支出 商品の仕入代金支払 700,000円
例2)1月7日に、12月20日に仕入れた商品を12月25日に1,000,000円で販売した代金を現金で受け取った
→1月7日 収入 商品の売上代金領収 1,000,000円
複式簿記とは
複式簿記とは、1つの取引を2つの側面からとらえて記録していく方法です。
複式簿記では、取引に登場する要素を「資産」「負債」「純資産」「収益」「費用」の5種類に分けるのでした。
このうち、原則として、「資産」「負債」「純資産」は増減し、「収益」「費用」は返品等、取引そのものを取り消す場合を除き増えるのみです。
単式簿記で取り上げた例を複式簿記で表すと次のようになります。
例1)12月20日に、商品700,000円を仕入れて代金を現金で支払った
→「商品仕入」という費用が増えたことの代わりに、「現金」という資産が減ったととらえます。
→12月20日 借方)商品仕入[費用の増加] 700,000円 貸方)現金[資産の減少] 700,000円
例2)1月7日に、12月20日に仕入れた商品を12月25日に1,000,000円で販売した代金を現金で受け取った
→「売上高」という収益が増えるとともに、「現金」という資産が増えたととらえます。
→1月7日 借方)現金 1,000,000円[資産の増加] 貸方)売上高[収益の増加] 1,000,000円
借方と貸方
「借方」「貸方」と見ると、拒絶反応のようなものが現れる方もいるかと思います。
正直なところ、「借方」「貸方」は単なる呼び名であって、左が「借方」右が「貸方」と覚えておいて、特に問題はないと思います。
上記の「資産」「負債」「純資産」「収益」「費用」の組み合わせの図が左右に分かれていましたが、この左右が「借方」「貸方」に対応しています。
左が「借方」右が「貸方」でかまわないのですが、「資産」「負債」「純資産」「収益」「費用」の組み合わせが左右どちらに位置するものかは、正確に覚えておく必要があります。
単式簿記と複式簿記の違い
同じ取引を単式簿記と複式簿記の両方で記録する場合に、両者の違いとして次のような点があげられます。
単式簿記は基本的には現金の出入りと残高しかわからない
単式簿記では現金の出入りを記録するため、前日の残高に当日の現金の出入りを足し引きすれば、当日の残高を求めることはできます。
しかし、「商品の仕入代金支払」「商品の売上代金領収」というのは、「摘要」であって、現金の増減の原因をメモしたものですので、仕入代金の支払がいくらか?や商品の売上代金領収がいくらか?は、個別に足し上げなければなりません。
他方、複式簿記で出てくる「現金」「商品仕入」「売上高」は「勘定科目」といって、同種の財産・債務や取引を類型化して名前をつけたものです。これらを勘定科目ごとに別の帳簿に集計しなおす「転記」という作業を行うことにより、財産・債務や取引の動きや残高・累計を計算することができます。「転記」によって集計される別の帳簿の名前を「総勘定元帳」といいます。
複式簿記と発生主義
発生主義とは、取引につながる事実・事象が発生したときに収益・費用があがったとする考え方ですので、必ずしもお金を支払う・もらうが同時に起こるとは限りません。このため、現金の出入りのみを記録する単式簿記では、収益・費用を正確に記録することができません。
そこで、複式簿記の出番です。
例えば、掛売り(いわゆるツケ)で商品を売った場合は、後でお金をもらえる権利を「売掛金」という名称でくくり、資産として認識します。
上の例でいうと、仕入と代金の受け取りの間に、もう一つ、取引が発生していることになります。
例3)12月25日に、12月20日に仕入れた商品を1,000,000円で販売した(代金は1月7日に現金で受け取る約束)
→「売上高」という収益が増えるとともに、「売掛金」という資産が増えたととらえます。
→12月25日 借方)売掛金 1,000,000円[資産の増加] 貸方)売上高[収益の増加] 1,000,000円
また、代金の受け取りは、「売掛金」という資産と「現金」という資産を引き換えた、ということになります。
例4)1月7日に、12月20日に仕入れた商品を12月25日に1,000,000円で販売した代金を現金で受け取った
→1月7日 借方)現金 1,000,000円[資産の増加] 貸方)売掛金[資産の減少] 1,000,000円
単式簿記(と単式簿記を単純に複式簿記に置き換えた場合)の例とは、「売上高」が登場する日付が異なることもポイントです。
掛仕入のケース
12月20日に代金を支払った商品は12月1日に仕入れていたものだった、という場合はこうなります。
例5)12月1日に、商品700,000円を仕入れた(代金は12月20日に現金で支払う約束)
→「商品仕入」という費用が増えるとともに、「買掛金」という負債が増えたととらえます。
→12月1日 借方)商品仕入[費用の増加] 700,000円 貸方)買掛金[負債の増加] 700,000円
例6)12月20日に、12月1日に仕入れた商品700,000円の代金を支払った
→「買掛金」という負債が減るのに伴い、「現金」という資産も減るととらえます。
→12月20日 借方)買掛金[負債の減少] 700,000円 貸方)現金[資産の減少] 700,000円
仕入の場合も、仕入れた段階でお金を支払う義務が発生しますので、「商品仕入」が登場する日付は変わってきます。
このように、複式簿記を用いることにより、
- 取引を発生主義で記録できる
- 現金の残高だけでなく、将来換金できる財産や将来支払わなければならない債務がいくらあるかも把握できる
のです。
これが、複式簿記は発生主義において利用されてこそ、その本領を発揮する、ということです。
まとめ
- 取引を記録する方法である「簿記」には「単式簿記」と「複式簿記」がある。
- 「複式簿記」は取引を構成する要素を「資産」「負債」「純資産」「収益」「費用」に分類し、1つの取引をこれら要素の2つ以上の組み合わせでとらえる。
- これら要素を構成する財産・債務・取引は、同種のものをまとめて類型化され、名前がつけられる。これが「勘定科目」。
- 売上代金をもらう権利を「売掛金」、仕入代金を支払う義務を「買掛金」といった名称でくくって記録することにより、発生主義に基づく記録が可能となるとともに、現金の残高だけでなく将来換金できる財産がいくらあるか、将来支払わなければならない債務がいくらあるかも把握できる。
今日の花
ピンポンマム(キク科、原産地:中国(推定))
黄色のピンポンマムです。昨日は旧正月でしたが、黄金色というのがいいのでしょうか、これもお正月の定番花材です。いけばなを習い始めたころ、3回連続でこの花材に当たりました。1回目はこれそっくり、2回目はこれよりも明るいレモンイエローで大きさは一回り大きめ、3回目は色はこれと同じで大きさは2回目と同じくこれより一回り大きめでした。菊なんてどれも同じと思っていたので、微妙に違う品種があるということに驚きました。